さよならまぼろし

一次創作サイト

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

黒い虚の中にそれはぼうっと浮かび上がっていた。 白い人魂のようにも、あるいは夏日の陽炎のようにも見えるゆらぎが一瞬のうちに千々に梳かれていく。糸が乱れに乱れて何の形を成すのかと考える暇もなく目の前でそれは突然大きく化生した。先刻よりもさらに…

恋しさのためし

「一条大納言、今日は特別に余を好きにしていいようにしてやろう」 人を追い払った室町第の一室で義満はにこやかに宣言した。その向かいに座して呆れたように溜め息を吐いた。 「藪から棒になんですか」 「そなたには日々世話になっておるからな。たまにはそ…

触れる

この季節は暑い上にじめじめとしていて雨が多い。昔は『修練で頼之にしごかれなくて済む』と喜んでいた義満だったが今となっては悪いところしか見当たらず、梅雨の気候のせいで連日降る雨にすっかり嫌気がさしていた。「よしゆきー…」花押を添えた料紙を指で…