さよならまぼろし

一次創作サイト

2022-04-01から1ヶ月間の記事一覧

千日紅が咲く季節には 2

「啓太ーこれ仕分けするの手伝って」 数学の課題を終わらせてまずは一区切りと台所にやってくれば母に呼び止められた。テーブルには色とりどりの花や新聞紙や鋏、紙が広げられている。 「俺今から勉強するんだけど」 吐き捨てるように言うと母は花を包んだ紙…

千日紅が咲く季節には 1

「おじいちゃんの若い時の写真?」 扇風機を「強」に設定し、うるさいモーター音とともに風を顔に受けていれば台所からそんな声が聞こえてきた。一人で扇風機を占領して回転する羽根をぼうっと眺めていたので話の脈絡が分からないが先程の声は妹のものだ。台…

自由への渇望 4

ヴァレンタインの指示で教官が位置についたのを見て、フリストフォールとジェイコブは銘々間合いを取った。フリストフォールは少し離れたところに屹立しているジェイコブを見据えた。錆色の鋭い瞳がフリストフォールを捉える。視線が合ったその一瞬で体が縛…

自由への渇望 3

或る日、訓練闘技場に現れたのは意外にもヴァレンタインだった。 いつものように教官の指導の下、訓練していればいつもと変わらない様子で突然やって来たのでフリストフォールは少しばかり驚いた。 ヴァレンタインの表情とわざわざこの場に足を運んだという…

自由への渇望 2

“妖魅”という名の実験の被験者としてこの『サルバトーレ』ロンドン支部に来てから約半月が経過した。 ヴァレンタインの言っていた通り、”青年”の血管が透けそうなほど青白かった肌は今ではすっかり健康的な色味を出しており、あれから肉体が自分のものではな…

自由への渇望 1

1 何もない空間がそこに広がっていた。 そこが何なのか、何があるのかもすべてわからなかった。ぼやけていた視界がピントを合わせると乳白色の空白が広がっていることだけがわかった。 一点を見つめていると体が浮遊しているような、肉体がそこから離れてい…

碧い眼は美男の証 6

朝目が覚めると、フィリックスは慌てて支度を始めた。 ベッドの中でしばらく昨日のことを思い返していたが、自分の仕事のことを思い出してゆっくりしていられないと気づいたからである。時計が無いので今が何時なのかは分からなかったがもし遅れたら大変だ。…