さよならまぼろし

一次創作サイト

冒瀆的宇宙生物が地球に飛来してきたらしい

さあさあと静謐な音を立てながら立ち上る水柱。

青とても公園の噴水で見られるような光景ではなく、ただその状況に呆然と立ち尽くしていた。

水柱のできた噴水の前に立つのは一人の男。ただ立ち尽くしている少女の前に居るのは、瘦身で背の高い男だった。青年は目を見開かせて屹立している少女を傍目で見やり、両者とも無言のままである。

青すると青年は呆れたように口を開いた。

「貴様っ!見ているなっ!」

「‥‥ええっ!?」

青年からかけられた唐突な言葉に、少女はびくっと肩を揺らして顕著に反応を見せる。 どこかで聞いたことのあるようなフレーズに若干戸惑いながらも、少女は自分が 両手に握りしめている本と、青年を交互に見ながら遠慮がちに口を開く。

「あの‥ここで何をなされているんですか?」

「············」

「その水柱って...貴方がやっているんですか?」

「············」

話しかけても青年は少女から目を離し、返事をしようともしなかった。

少女は冷や汗をかきながらも、本を握っている手の力を込めた。 俯きながらも、また青年に話しかける。

「この本って、貴方のなんですよね...?」

「だからどうした。お前が触っていいものではないぞ。」

「す、すみません...」

青年から発せられた冷血な言葉に少女の顔から一気に血の気が引いた。 それと同時に焦燥感のような、なんともいえない気持ちに苛まれ、内心今すぐこの本を噴水の中に投擲したいほどだった。

「...お前、いつまでそこに居るんだ。」

「あ、貴方こそ此処で何やってるんですか。」

「別にお前が知らなくてもいいことだ。今すぐここから立ち去るが良い。」

振り向かずに話す青年の言葉に、少女はますます忿懣の念を燃やした。

青年は今、呆れ切った表情をしているだろう。

だがそんなことは知らない。そう言わんとばかりに、ついに啖呵をきらした少女は本を持って走りだした。

向かう先は噴水だった。 すると、野球部の二軍ピッチャーよろしく決してちゃんとしたフォームとは言い難い体勢で振りかぶった。

そう、本を噴水の中に放り込もうとしているのだ

「 一ーー!」

突然のその光景に、隣で瞳目させた青年は咄嗟に反射で手を伸ばした。 青年が伸ばした片手はあっという間に少女の細い腕を掴んだ。

すごい力で。

「だっ!あだだだだい!痛い!痛いです!離して!なんてことするんですか!」

「それはこっちのセリフだ、蛸女!」

腕を掴まれて悲痛の声を出している少女に対して、青年はまさに憤怒しているいった様子でただ少女の腕に込めている力をゆるめなかった。

今日は、いつもと変わらない一 日を送っていた。

近隣にある普通の公立校に通う至極普通の女子高生、"神田朝貴"

他の人間よりも少し挙動不審なところを除けば、ごく普通の少女である。今日もいつものように、授業を終え帰路についていた。 朝貴は部活無所属のため、放課後きまって何かをするということもない。

時々、彼女の嗜好でもある読書に耽るため図書室に行くこともある程だった。 だが、今日はいつも同じ一日とはならなかった。

いつも通る通学路に併設されている噴水公園。勿論、噴水はいつも通りだった。

だが、噴水の前にはとある 男"が立っていた。 直立不動をしている"男"の目の前、噴水は一際変わった異様な光景に変貌していたのだ。''男"が右手を翳している先には、噴水の水が異形とも呼べる形になっていたのだ。説明し難い、形容しがたい形だ。水は液体だ。だが、まるで固体と化したような、水柱はとても人間の手でできるような形でなかったのだ。

朝貴は困惑した。その異様な光最に困惑するしかなかった。何だが不思議な気分だった。 それは今まで一度も目にしたことのない風景で、それが視界に入っているだけで 何とも言えない感を感じるのに、目を離すことができなかった。 足に何かが当たったような気がした。下を見ると、一冊の本が落ちていた。焦茶色の分厚い本の表紙に金色の文字が夕陽の光に反射している。魔導書を思わせるつくりだった。

文字は英語圏かとも思った。

だが違う、これは英語などでない。それ以前に見たことのない文字であった。 自分が見たことがないだけで、どこかの国の文字だろうか。

だが文字の形は不気味で、とてもこの世界の中のどこかの国で使われてそうな文字ではない、と不思議と思った。 そして、コンクリートの地面の上には数枚の紙のようなものが落ちていた。本に も何枚か紙が挟まれていた。そして、その散らばった紙は噴水の前に立っている"男"の後ろまで続いていた。ということは、これは彼のものなのだろうか。そう朝貴が考えていると、ふと男"は後ろの気配に気づいたのが、突然こちらを振り向いた。

"男"の顔立ちはとても整っていた。

顔のパーツ一つ一つが端正なつくりで、「眉目秀麗"とはこういうことを言うのだなと想わせた。

背は高く、手足はすらりと長く伸びており、蒼い髪の毛に碧眼と外国人を思わせ

る容貌だった。俗に言う "イケメン"というやつだろうか。

いや、まあ朝貴が言うならば美青年"と言った方が的確だろう。

だが、美青年"は朝貴の存在に気づいた途端、みるみるうちに不機嫌そうな表情に変わっていった。

その表情に朝貴は反射的に肩を揺らして、顔を青ざめた。

そして冒頭回帰。これが今までに至る経緯である。

「で何故俺の本を噴水の中にぶん投げようと思ったのだ?」

先程と場所は変わらず噴水の前。朝貴はベンチに腰を下ろして、顔を俯いていた。

男の手にはさっき朝費が投げようとした本。放り込まれる前に"男"が聞一髪のところでキャッチしたため、 本は無事だった。

だが、 男"は怒っていた。前述のことからそれも当然だろうが、いかにも怒りを隠そうとしないその態度が朝貴を恐怖に陥れていた。朝貴は観念して恐る恐る顔を上げる。

「だ、だって貴方があんな態度とるから...」

「は?」

「ひいいっ...すいませんなんでもないです...」

朝貴が小さく声を漏らすと、そこから俯瞰していた "男。が屈み、朝貴に詰め寄るように声のトーンを低くした。 これは相当怒っているようだ、朝貴はそう感じていた。

「なんか...無意識に体が動いて...そうでもしないとずっとあのままだっただろうし···」

「あのままで良かったはずだ。お前が俺に関わる必要性など全くない。 俺にもお前にも利益などないはずだ。」

男 の冷徹な言葉に朝貴は冷や汗やらなんやら顔から出るものすべてを噴き出している。

"男"の言葉には一句一句、説得力があり威圧感が込められていた。 反論でもすれば、すぐに捩じ伏せられそうな、そんな声だった。

「不快な気持にさせたのなら謝罪します。すみませんでした。 ですけど、あれは何だったんですか?あの、噴水の摩詞不思議な水柱は...」

朝貴の言葉に、 男"の表情は突然膠着した。

擬音をつけるのなら、ぎくり、といった感じだろうか。

とても人間技とは言えない仕業に、彼は自分のことが彼女にバレると感じたのか。

「べ、別に何でもない。あれはただの...」

「もしかして手品師とか?」

「··········」

「不思議な力を持った超能力者?」

「··········」

「それとも、現代に甦った魔術師とか?」

男"は朝貴の問い掛けにすべて黙秘していた。

だが、額から汗をかいているなど、少なからず動揺しているようだった。

その異変に気づいた朝貴は"男" の顔をまじまじと見つめた。

何かを隠しているんですよね?恐らく普通の人ではないことは分かるんですが·····」

「·····ふん。そんなことをお前が知って何の得がある。大体、見ず知らずの人間 に正体など教えてなんの意味がある。」

見下すような冷たい笑みに朝貴は声を詰まらせた。

確かに、出会ってまもない人間に自分の正体を教える者など居ないだろう。 だが、なぜか彼には人間ではものを感じた。

アニメや漫画の影響なんかではないが、不思議とそう感じたのだ。

「知りたいです。あんなものを見てしまった以上、教えてもらえなければ私、夜も10時間しか眠れません。」

「·····それは寝すぎだと思うが。」

真剣な表情でボケをかます朝貴に、 "男"は無表情でツッコミを入れると、その姿を見据えていた。

すると、 "男"はその場から数歩あるいてぴたりと足を止めた。

「そんなに知りたいか。...俺のことが。」