さよならまぼろし

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2023-01-19から1日間の記事一覧

獅子と春風 4

四 夕方になり、満詮は兄のいる三条坊門の御所に入った。 昼頃まで激しい雨が降り、一旦止んだが暫くしたのちに再び驟雨が降った。雨が止むのを待って再び降り出さないのを確認して武者小路の小川第を出たのだった。 煌々と道を照らす夕陽は美しく、これを見…

獅子と春風 3

三 雨注ぎの響きに耳を澄ますと、外がうんと遠いところにあるような感覚に陥った。庇から垂れ落ちる雨粒が地面に打ち付けられているのを眺めながら義満は物思いに耽ていた。 永和三年、義満はニ十歳となった。去年、己より年嵩の公家の姫、日野業子を娶り子…

獅子と春風 2

二 貞治六年の師走、春王の父義詮が薨じた。 その二月前に病臥したため、当時讃岐にいた細川右馬頭頼之を呼び寄せ上洛させた。 道誉や赤松、鎌倉公方で義詮の弟である基氏の推挙によって管領へと就任するためである。高経と義将はというと、その一年ほど前に…

獅子と春風 1

己から見たあの兄弟の印象など枚挙に暇がないと言ってしまえばそれまでだった。 口さがなく吹聴する気もないが、だからといって訪ねられて黙るようなことでもなく。付き合い自体は長いのだから何も思わないということの方が寧ろ気味が悪い。では答えればいい…

2023/1/14 歴創版日本史ワンライ「南」

「南御所さま」 康子が北山第南御所にある居室にいると名を呼ばれた。声がした方へ振り向くとそこにいたのは先日薨じたばかりの夫である義満の実子である義嗣だった。康子は義満の正室であった業子の薨去により、後妻として入室したが義嗣は摂津能秀娘である…

2023/1/7 歴創版日本史ワンライ「富士」

今日は今年になって初めての出仕の日だった。朝になって室町第へ入ると、斯波義将の顔を見るなり主君である足利義満がとことこと近づいてきた。そして、義将の顔、というより少し上をじっと眺めた後、顔を思いきり歪める。 「つまらん!」 義満はいかにも面…